2024年9月28日 05:00 | 有料記事

感情の起伏が音程の高低差に繋がる難曲をパワフルに表現する海宝直人(セフン)、ミステリアスな雰囲気を徐々に色濃く醸し出してゆく木下晴香(ヒカル)。写真=東宝演劇部。
韓国エンタメ界ではファクト(事実)とフィクション(虚構)を合わせ味噌にした「ファクション」と呼ばれるジャンルが人気を誇っているとプログラムで知った。実在の人物や歴史的事実に大胆な脚色を施し、上質な娯楽作品に仕立てるのだ。「ファンレター」は、日本統治下(1910~45年)の30年代の京城(現ソウル)を舞台に、一人の文学青年の苦悩と葛藤を、時に超現実的に、描いた秀作だ。韓国初演は2016年。
物書き志望のセフン(海宝直人)は、憧れの小説家へジン(浦井健治)に、「ヒカル」という筆名でファンレターを書く。セフンは幼い頃に母を亡くし愛を知らずに育った青年だ。セフンは、へジンが描く穏やかな自然や風景に、自分の孤独や失われた何かが癒されるのを感じファンになる。セフンは、「ヒカル」という仮面をかぶることで何者かに変身し自由に大胆に書けることを知る。そのへジンから返事が来た。すぐ返信。この繰り返しがのっぴきならないところに連れてゆく。なんとヘジンが「ヒカル」を女性と思い込み、恋をしている…。
小説家へジンのモデルは、統治下での疲弊した農村の暮らしをユーモアたっぷりに描いた実在の作家・金裕貞(キム・ユジョン)である。
へジンの親友で作家仲間のイ・ユン(木内健人)は「ヒカル ・・・
【残り 667文字】