稼ぎ時の海苔漁終了 観光キャンペーンも中止 風評被害の懸念も重油流出 千葉県南部に打撃

 神奈川県三浦市沖で貨物船同士が衝突し、千葉県南地域の海岸に重油が漂着した問題は、各地の水産業や観光に影響が広がっている。富津市では、市内産の水産物を使った観光キャンペーンが中止となり、4月まで収穫シーズンだった海苔(のり)漁が前倒しで終了。稼ぎ時を迎えていた漁師は「打撃は大きい」と頭を抱えている。

 富津市などによると、海苔漁は例年、10~4月ごろが収穫時期。今年も残り1カ月の漁期が残っていたが、重油の漂流で、海苔漁を手掛ける市内4漁協は、全て今期の漁を取りやめた。

 県内の収穫量の5~6割を占める新富津漁協(同市富津)では、3月26日に漁場に油の漂着を確認。翌27日から海苔網などの撤去を始め、摘み取った海苔は、全て廃棄することにした。

 同漁協の海苔漁師は、2月ごろまで漁具代の支払いに収入を充てるケースが多く、3~4月が文字通りの稼ぎ時。同漁協の平野敏雄参事(64)は「組合員のほとんどが収入を海苔に頼っている。(収穫のない)夏は収入がなく、打撃は大きい」と肩を落とした。

 一方、同市内の飲食店では毎年4~6月、豊富な漁場である富津岬沖の人工島「海堡」周辺で採れた魚介類を提供するキャンペーン「海堡丼まつり」を開催しているが、今年は中止に。「海堡」周辺に重油が漂っているため、水揚げした魚に付着する恐れがあることなどから決断した。

 同まつりを実施する富津市商工会によると、東日本大震災があった2011年を除き、約10年間、開催してきたといい、担当者は「楽しみにしていた方もいただろうが、口に入れるものだけに万全を期して泣く泣く見送った。苦渋の決断」とうなだれた。

 同市内ではこのほか、富津海岸の潮干狩り場が安全確認できるまで休業しており、天羽漁協ではヒジキ漁や刺し網漁を中止。漁業関係者からは「影響がないほかの漁業にも風評被害が出るのが怖い」と懸念する声も上がっている。

 ヒジキ漁は館山市浜田の西岬漁協も全面的に取りやめた。重油が漂着していない漁場もあるが、風評被害を懸念して中止を決断、今年の収穫高はゼロという。現在行っている他の漁に影響が出る可能性もあり、同漁協は補償の請求を検討する意向だ。


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