郷土ゆかりの江戸時代の彫刻師、波の伊八の作品を展示する特別展「波涛を超えて~伊八、海を渡る~」が鴨川市郷土資料館で開かれている。従来知られているよりも広範囲な地域で伊八の作品が新たに見つかり、その名声の広がりや当時の流通、経済の一端を知ることができる。16日まで。
展示されているのは伊八10代の初期作品から、円熟期の50代までの19作品。力士や龍など同じテーマでも、年代によって作風に年輪を感じさせる。
南房総市の神社で見つかった「牡丹に獅子」では、作品の完成度もさりながら、前作から1カ月余りで完成させている。20代前半で独立していた伊八が受注から納品まで手際よく進めていたといえる。
ここ数年、木更津市内でも数点の作品が見つかり、当時内房最大の経済都市で仕事をして名を広めた軌跡が分かる。今回は神奈川県湯河原町でも作品が見つかった。「海を越えた」伊八の活躍がうかがえる。
大作は横須賀市真福寺の「黄石公」と「張良」の逸話を表した欄間。秦を倒して中国を統一した漢の軍師だった張良が兵法を会得するのに黄石公の靴を川から拾い上げる話だが、欄間として下から見上げる角度を計算に入れながら迫る波の迫力を表している。裏側に彫り込まれたコイの滝登りも表面とそん色ない。
伊八は当時、工房を構えて顧客の注文に応じて作品を納入していた。学芸員の石川丈夫さんは「これほどの大作ですら代表作にならず、このレベルを多産していた。経営者的才覚と芸術家が混在するのが伊八の魅力」と嘆息する。
今回のテーマは「波涛を超えて」。波ばかりでなく、伊八の全体像を見てほしいというメッセージがこもる。石川さんは「新発見がある度に驚かされる。まだまだ伊八の全容はつかみ切れていない」と話した。